家づくりのこと

“快適・省エネ”の正体を探る。UA値だけでは語れない家づくり。

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“快適・省エネ”の正体を探る。UA値だけでは語れない家づくり。

暖かく、涼しく、空気がキレイな住まい。でも電気代は高くない

初めまして。株式会社シムシムの島と申します。
「暖かく、涼しく、空気がキレイな住まい。でも電気代は高くない。」
それが今の住宅に求められる価値だと感じています。その価値を実現すべく、工務店さんや、空調機器メーカーとタッグを組んで日々仕事に取り組んでいます。富山県では、米田木材さんの住まいづくりのお手伝いをさせていただいております。
そして今回<快適・省エネな住宅>のプロ視点から、このコラムを書かせていただくことになりました。皆さんの家づくりのヒント、そして私を通して米田木材さんの家づくりに対する真摯な姿勢をご理解いただければ幸いです。
拙筆ではありますが、お付き合いよろしくお願いします。

大雪警報発令中。はたしてモデルハウス内は・・・

さて、今回のコラム本文は、2月23日に開催された米田木材さんのイベント報告から始めさせていただきます。

その週、富山はずっと氷点下でニュースは大雪予報。私はイベント講師を仰せつかっており、住まいのある名古屋からの移動となるので、果たして富山にたどり着けるのか?と心配していました。
当日の朝は快晴、でも路面はツルツル。もちろん予報通り氷点下。イベント会場は米田木材さんのモデルハウス。車を停め、今年一番の厚着でモデルハウスの玄関ドアを開けました。

ガチャリ。
すると頬をなでる心地よい室内の空気、そこはまるで別世界でした。玄関がすでに暖かい、LDKの温度計は21℃。すぐにコートを脱ぎ捨てました。暖かいのは玄関とLDKだけではありません。遠く離れた寝室や脱衣室も20℃の暖かさ。
でも暖房機器はリビングに設置された18畳用のエアコンとLDKの床暖房のみ(ちなみにモデルハウスの床面積は45坪=90畳あります。)
しかもエアコンは、もっている能力の半分ほどの消費電力でしか動いていません。まるで大谷翔平が130km/hのボールでスイスイ三振の山を築いているようです。

なぜそんなことが可能なのか?

それはこのモデルハウスの断熱性能がとても高いことが一因です。
UA値は0.26w/m2k。国交省が制定している断熱の基準では、富山が属する<5地域>において最高ランクの『断熱等級7』の性能です。

断熱性能を表すUA値が0.26w/m2k。UA値は家作りの登竜門になりつつあるとは言え「w/m2k」は馴染みのない単位です。
「今年の○○高校のエースは150km/h投げるらしい。」と言われれば、プロを目指せそうだね、となるのですが。「山田の新居は0.26w/m2kらしいよ。」と言われても、理解できる人は(住宅のプロも含めて)まだとても少ないのが現状です。
実際のところ、どれだけすごいのか?
そこで、発泡スチロールに換算してみます。魚を新鮮なまま運ぶアレです。

このボックスの発泡スチロールの厚みは通常15mm程度あります。その15mmの断熱によって、35℃を超える真夏でもボックスの中は「氷の世界」を実現できるわけです。それに対して米田木材さんのモデルハウスは発泡スチロール換算でこれぐらいの厚みがあります。

屋根=250mm
壁=232mm
床=200mm

圧倒的に厚い、窓もプラスチックの窓枠です。プラスチックはアルミに対して1000倍熱が伝わりにくい素材です。そしてガラスは三層になっています。この厚い断熱と窓にモデルハウスはくるまれています。

これが外が氷点下なのに床面積は45坪(90畳)もあるのに、18畳用のエアコンとLDKの床暖房のチョロチョロっとした運転で20℃以上の室温になっている正体です。

「ηAH(イータ・エー・エイチ)」?

さて、このコラムはここからが本題です。
「UA値が0.26w/m2kだから快適で省エネです。」と言い切れるでしょうか?
実は必ずしもそうとも言えません。なぜなら<快適・省エネ>を決める要素はUA値だけではないからです。

例えば冬場の「日射熱」。これをどれだけ室内に取り込める設計になっているか。
確かに私が住んでいる名古屋と比べると圧倒的に冬の日射熱は少ないですが、それでもうまく住宅内に取り込む設計は可能です。条件がよければ南面する窓面積1m2につき、800wの日射熱があたります。例えば幅2.5m高さ2.0mの窓があったとすると(面積5m2、日射取得率は0.5とする)、2000wの日射熱が室内に流入することになります。これは800wの電気ストーブ2.5台分です。



2.5台分の電気ストーブが動いている時はきっとエアコンはあまり動かないはずです。また、うまく日射熱を取り込む設計ができていれば、UA値も0.26w/m2kまで必要ない可能性もあります。

冬の日射熱がどれだけ住宅内に入るかを表す指標があります。
それは「ηAH(イータ・エー・エイチ)」です。
実はこの値はUA値と同様に住宅の義務基準となっていますが、計算が難解なので住宅のプロでもほとんどが理解していません。それもあって比較的理解しやすいUA値で住宅の<快適・省エネ>を語ろうとする傾向があると思います。また、住宅の大きさ、形も特に<省エネ性>に大きくかかわってきます。

例えば、下の図のようなケース。二つの建物は同じ床面積ですが、左側の建物は外壁、屋根、床面積の総合計が右側の住宅の1.42倍あります。つまり、双方が同じUA値だったなら、左側の建物は1.42倍の量の熱が逃げる事を意味します。これは逆に言うと右側の建物はある程度断熱性能(UA値)が悪くても逃げる熱量が同じ、ということです。

実際にこのモデルハウスは平屋で入り組んだ形をしています。
それによって、実はUA値0.26w/m2kの割には電気を使っている、高い能力のエアコンを使っていると言えるのです。

ここで示した冬の日射熱の件(ηAH)、建物形状の件はほんの一例にすぎません。
事ほど左様に<快適・省エネ>を語るときにUA値だけで語るのはあまりに筋が悪いのです。

「測らないと分からない」

それと、もう一点お伝えしたいことがあります。

それは「測らないと分からない」という事です。
つまりUA値がこうなった、ηAHがこれぐらい、こんな建物形状、その他アレコレがこうなったとしても実際は温湿度や消費電力を測らないと何も分からないという事です。

「私は体脂肪率が8%なので足が速いです!」と自慢され、それでは100m何秒ですか?と聞いたところ回答が「いやぁ、測ったことがないので・・。」と言われたらズッコケるはずです。

測らないとわからない。
じゃあ、狙って設計して測ってみよう。それがまさに米田木材さんと私が取り組んでいることです。どれぐらいのUA値、ηAHでどういったエアコン・換気計画だとよいのか。設計手法を共に模索しながら、定期的に温湿度・消費電力測定を行っています。測れば測るほど、エビデンスは積み上げられ、日々の設計にフィードバックされています。

「米田木材の住宅は暖かいのか⁉」

さて、2月23日のイベント。
当日は温熱に関心のある方に多数来場いただきました。

イベントタイトルは『米田木材の住宅は暖かいのか?』
その答えをまさに事前に行った温湿度計測、消費電力測定の結果をもって回答させていただきました。

住宅を検討される方にとって、UA値は分かりやすい指標です。
でも前述の通りそれだけを追いかけるのは筋の良くない議論です。日射の設計、建物の形、(今回は語りませんでしたが)最適なエアコン・換気計画。そういった事が複雑に絡み合って<快適・省エネ>な住宅は提供されます。
このイベントを皮切りにして、その複雑さを計測結果というエビデンスによって紐解き、皆さんの住まい作りのヒントにしていただきたいと考えています。

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株式会社シムシム 代表取締役

島 敬雄

株式会社シムシム 代表取締役。 “断熱・気密・冷暖房・換気”の知識を駆使し、住宅の熱環境をプロデュース。 東海地方で200棟以上の空調計画や工事の監修経験をもつ、プロフェッショナル。