ハウスではなく、ホームを創る。―― インテリアデザイナー・齊藤美紀さんが仕立てる「帰りたくなる場所」
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「家を建てる」という大きな決断の先に、私たちが本当に求めているものは何でしょうか。 広さや設備といったスペックも大切ですが、その場所でどんな風に目覚め、どんな匂いに包まれ、誰と笑い合うか。そんな「暮らしの息遣い」こそが、住まいをただの箱(ハウス)から、愛おしい我が家(ホーム)へと変えてくれます。
私たち編集部にとって、インテリアデザインスタジオ『utide(ウチデ)』は、遠くから眺める憧れの存在でした 。その洗練された美しさと、住まう人の人生を慈しむような空間づくり 。いつかその思想の深さに触れてみたい——。そんな想いで、設計士が「どうしても直接お話を伺いたい」と直接交渉したことで今回のインタビューが実現しました。
インタビューに応じて下さったのは『utide(ウチデ)』を主宰する齊藤美紀さん。ニューヨークやロンドンでの居住経験を持ち、日本の住宅シーンに新しい風を吹き込む彼女が大切にしているのは、作り手としての圧倒的な「準備」と、丁寧なヒアリングから生まれる住まう人への深い「共感」でした。

不安さえ、先回りして包み込む。プロとしての「準備」とは
齊藤さんの仕事スタイルは、驚くほど徹底しています。設計に入る前のヒアリングには1ヶ月以上の時間をかけ、時にはお客様のご自宅を訪ねて、クローゼットの中や靴の数、ストックの持ち方まで把握することもあるそうです。
「お客様に不安や迷いを感じさせないこと。それが私たちの仕事です」
そう語る齊藤さんの眼差しは、穏やかでありながら確かな自信に満ちています。家作りは、多くの人にとって一生に一度の大きなプロジェクト。決めるべきことの多さに疲弊してしまう施主様も少なくありません。

「目をつぶって、次にパッと開けたら理想の家ができている。お客様が心配しなくても、私たちが最高の答えを用意してお待ちする。そのための準備には一切妥協しません。事前にすべてを詰め切り、現場が動き出してからお客様に『どうしますか?』と迷わせるようなことはしたくないんです。それが、プロとしての誠実さだと思っています」
言葉にする前の不安さえも先回りして解消し、心からリラックスして家作りを楽しめる状態を作る。齊藤さんの「準備」とは、単なる事務作業ではなく、住まう人の暮らしを背負う覚悟そのものでした。
ユーティリティとデザイン。旅から持ち帰る「心地よさ」の種
スタジオ名である『utide』には、「Utility(機能)」と「Design(意匠)」を掛け合わせるという意味が込められています。その確かな審美眼を支えているのは、齊藤さんが長年続けている「旅」の習慣です。
「どこへ行くにもメジャーは手放せません。泊まってみたいホテルに泊まり、スイッチの位置から椅子の座り心地、カーテンの重なりまで、あらゆるものを測って体感するんです。図面の上だけではわからない、身体が感じる『心地よさ』の正体を突き止めたいから。そのストックがあるからこそ、お客様の『なんとなく好き』という抽象的な感覚を、具体的な形に翻訳できるのかもしれません」
美しいけれど使いにくい、あるいは機能的だけど味気ない。そんな妥協を許さない彼女の提案は、常に住まう人の動線と感情に寄り添っています。
「住宅は、毎日を過ごす場所。だからこそ、扉を開ける角度ひとつ、手すりの質感ひとつにまで理由が必要です。理由があるデザインは、住む人の心に安心感を与えてくれるんです」
流行りではなく、あなたの「価値観」を形にする
「最近はSNSで流れてくる『流行りのスタイル』を求める方も多いですが、大切なのはそれが本当にご自身にとって心地よいかどうかです。10年後、20年後にその空間にいて、『やっぱり家が一番いいよね』と思えるような、安らげる場所であってほしいんです」
齊藤さんは、時には古いものを大切にすることも提案します。代々引き継がれた椅子を、今の暮らしに合う生地で張り替えて使い続ける。あるいは、あえて余白を残し、住みながら育てていく。そんな、その家族にしか語れない物語を空間に組み込んでいくのです。
「外で外食するよりも、家でゆっくりお酒を飲みたい。素敵なホテルに泊まるより、やっぱり自分の家が一番落ち着く。そう思っていただけた瞬間が、一番嬉しいですね。私たちが作っているのは単なる『ハウス(建物)』ではなく、その先にある『ホーム(暮らし)』。お客様が自分たちらしく、心地よく生きていくためのきっかけを作ることが、私たちの本当の役割だと思っています。」
日本の家作りを、もっと自由に、もっと楽しく
齊藤さんの視線は今、自身のスタジオの枠を越え、日本全体の「暮らしの質」へと向けられています。
「私たちのスタジオだけで完結するのではなく、もっと広い層の方々に『インテリアを楽しむ文化』を届けていきたいんです。例えば、オンラインを通じて、遠方の方や、これから家作りを始める方々が気軽にプロの視点を取り入れられるような仕組み作りにも挑戦しています」
予算やスピードに縛られがちな現代の住宅事情の中で、齊藤さんはあえて「自由」と「楽しさ」を強調します。
「家作りは、本来とてもクリエイティブでワクワクする体験のはず。誰かの真似やトレンドに流されるのではなく、もっと多くの人が自分の感性を信じて、楽しみながら住まいを整えていけるように。オンラインショップや新しい発信を通じて、一人ひとりが理想の暮らしを描ける『きっかけ』を、これからもたくさん作っていきたいと思っています。」

【編集後記】
齊藤さんとお話しした時間は、私たちにとって、家づくりの真理を改めて教わるような、眩しく贅沢なひとときでした 。
「ハウス(建物)」を売るのではなく、その先にある豊かな「ホーム(暮らし)」を創るということ 。そして、お客様の不安を先回りして解消し、心からリラックスできる状態を整えるための徹底した「準備」 。齊藤さんが大切にされている価値観の一つひとつが、私たちの目指すべき理想と重なりました。
「何を足すべきか」ではなく「どう在りたいか」 。齊藤さんのような、日本の家づくりを自由で楽しいものへと牽引していく存在に、私たち米田木材も少しずつ近づいていきたい。その背中を追いかけながら、私たちもまた、住まう人の人生を鮮やかに彩る「きっかけ」を創り続けていこうと感じた取材でした。
【Profile】
齊藤美紀(さいとうみき)
1974年東京都生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院メディア研究科(Architecture Urban Design)修了。Space Design、FAST RETAILINGを経て、2004年utide設立。受賞歴/2021年MLスタイリング・デザイン賞ゴールドプライズ、The International Design & Architecture Awards 2021 Asia Pacific Shortlisted。
【Notice】オンラインショップが4月にリニューアル!
インタビューの最後にお話しいただいた「もっと多くの方が、楽しみながら住まいを整えられるように」という想い 。それを形にするutide studioのオンラインショップが、今春4月にリニューアルされます。
実際の現場でも採用されている、使い勝手と美しさを兼ね備えたアイテムたちが揃います。例えば台座や仕上げをインテリアに合わせて選べるサニタリーアクセサリーや、インテリアに合わせて仕上げを選べるワインラックなど。ちょっとしたことでインテリアが美しく、生活が楽しくなるアイテムをご用意します。
家づくり中の方はもちろん、今の暮らしに彩りを添えたい方も必見です!
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YG TIMES編集員
柏木 彩夏
2019年に中途採用で入社し、現在は入社7年目。所属は事務部だが、部署を超えて色々な業務にチャレンジしている。YG TIMESの編集やインナーブランディングに携わる。現在、自分の家の"家づくり"真っ只中!



